譲の一日は、朝起きて台盤所に立つところから始まる。鳥の声が鳴くと同時に目が覚める。台盤所に立てば、することは山積されていた。まれに早起きした誰かが手伝いを申し出てくれることもある。大抵それは朔なのだが、今日は敦盛だった。
「おはよう。譲、何か手伝うことはあるだろうか」 「おはよう。早いな、敦盛。・・・そうだな。じゃあ、そこの野菜を洗ってくれるか」
野菜を水洗いする音と米を炊くための火の燃え盛る音。台盤所に響くそれらの音に紛れるように譲が沈黙を破った。
「何か食べたいものあるか?」 「・・・何故私に訊ねるのだ」 「だって誕生日なんだろ?」
誕生日とは、その人物が生まれた日だと譲が説明する。それからもう一度食べたいものを訊かれて、敦盛が困惑する。
「誕生日だと、何故食べたいものを訊ねられるんだ?」 「・・・お祝いだからかな」 「・・・・・・譲や神子、それに将臣殿の世界では誰かが生まれた日に、その誰かを祝うという風習が当たり前なのだな」 「親しい人、大切な人限定だけどな」
その言葉に敦盛は譲のほうを見た。譲は敦盛に背を向けていたけれど確かに聞こえた。望美が、譲が、将臣が育ったという世界の心暖まる習慣。その心こもる言葉。
「誕生日おめでとう」 「・・・すまない」 「え?」 「・・・こういうのは初めてで、なんと言えばいいのかわからない」
恥じ入る敦盛の顔を見つめていた譲が、ふと笑顔になった。
「嬉しいときは、ありがとうでいいんじゃないかな」 「そうか・・・。ありがとう、譲」
短かい。若き恋敵組は大好きなのに、この二人の会話がいつまで経っても思い浮かばなかった。 こんな譲はありですか?
20060613 続くんだよ〜 ←戻る