最初に見たとき、ヒノエは花やら草やらの塊が蠢いているのだと思った。けれど、その塊には足が生えていて、ヒノエの目の前を通り過ぎていく。そこで初めて、誰かが花や草を大量に抱えているのだと理解した。前が見えないのか、ふらつく人物の足元を注視する。
「敦盛?」
花の塊は動きを止めた。くぐもった声が聞こえた。「ヒノエか?」と言っているようだ。ヒノエは話しやすいように、塊の背後に回った。
「お前も隅に置けないね。贈り物だろ?」 「そんなのではない」 「何だよ、隠さなくてもいいだろ」
敦盛の肩を軽く叩く。その拍子に敦盛がよろけた。地に何かが落ちる音がした。それなりの重量がある音だった。ヒノエは音のした方に目を向ける。落ちたものを拾い上げた。
「・・・敦盛、何を贈られたんだよ」 「贈られたものではないと・・・」
敦盛の言葉を遮るように、ヒノエは手の中のものを突き出す。それを敦盛もじっと目を凝らして見つめている。敦盛も花束の中に仕込まれていたもののことを知らなかったようだ。単に花束の中に混ざっていたにしては、妙な存在感なのである。二人がそれをじっと見つめて、何であるのか解明しようとしている最中に弁慶が姿を見せた。
「ああ、敦盛くん。ありがとうございます」
その言葉でヒノエは全てを察したらしい。
「・・・あんたのかよ」 「ええ。薬を作るのに必要だったので。敦盛くんに手伝ってもらっていたんです。ありがとうございます。重かったでしょう?」
後半の言葉は敦盛に向けたもの。弁慶は礼を述べつつ、敦盛の抱える花束を丸ごと受け取ろうとする。ヒノエは手の中のものを、今度は弁慶に突きつけた。
「じゃあこれも、あんたのかい」
弁慶も敦盛と同じようにじっと見つめている。弁慶も知らないのだと、いよいよ敦盛も訝しく思う。すると、弁慶が小さく言った。
「落ちないように上手く仕込んだつもりだったんですけどね」
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既に陽も傾きかけた頃、弁慶が先程の礼を述べに来た。そして、敦盛に手を伸ばす。
「誰かがこの世に生を受けた日を、誕生日という記念日として祝うのだと望美さんに聞きました。おめでとう、敦盛くん」
弁慶の伸ばした手には、薬包紙に包まれている品。きょとんとした顔でそれを見つめる敦盛に、弁慶は笑って言った。
「ささやかですけど、これはお祝いと今日のお礼を兼ねて」
受け取れないと言う敦盛に、弁慶は無理やり手渡す。困った顔をする敦盛に、くすくす笑いながらそっと小声で囁いた。
「媚薬ですよ。是非、意中の方に使ってくださいね」
そういえば、と弁慶は思い出したように言う。
「望美さんはあちらで稽古をなさっていますよ」 「べ、弁慶殿っ!」
呆然としていた敦盛の表情が一瞬にして、夕陽に似た色を映し出す。弁慶ははなやかに微笑んで踵を返す。後には原材料を訊ねることができなかった敦盛が残された。すごいギャグなお話です。シリアスさの欠片もない。弁慶の贈り物は媚薬という話を思いついたら、出来上がりました。
20060528 続きますよ
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