「よっしゃ、じゃあ行くか!」
その将臣の一言が、敦盛の一日の始まりだった。将臣に言われるままに出かける支度を整える。 敦盛が玄関先に姿を見せると、将臣は満足そうに頷いて歩き出す。将臣に疑問をぶつける間もない。 それを胸に抱えたまま辿り着いたのは、駅前。 とうとう疑問が敦盛の口をついて出た。
「あの、将臣殿・・・?」 「ん?何だ?」 「今日は・・・一体何ゆえに私を?」 「言ってなかったか?」
全く、何もと答える代わりに、こくりと頷いた。将臣は「わりぃ、わりぃ」と笑顔で言った。
「今日はお前の生まれた日だろ。だからお祝いをしようってことになったんだ」 「わ、私の・・・?」 「俺をお祝いしても仕方ねぇだろ」
途端に困ったような顔をした敦盛に、将臣は苦笑する。 自分のことは全く気にかけない。好意を寄せられると困り果てる。 将臣はそんな敦盛が第二の弟のようで、自然と接し方もそうなってしまうのだ。 経正がいつも弟のことばかり話していたのを聞いていたせいかもしれない。
「ま、とにかく、俺はお前のプレゼントを選ぶ係だ」 「ぷれ・・・」 「ああ、お祝いに贈り物はつきものだろ」 「贈り物?ま、将臣殿!私はそのようなものをいただけるような・・・」
将臣はその先を言わせまいと、手のひらで敦盛の額を叩く。 一瞬、敦盛が目を閉じた。小気味良い音が響く。敦盛が放心したように目をしばたいていた。
「資格とか、そういうんじゃなくてな。あいつらの気持ちなの」
普段よりも真剣味を増した将臣の言葉を聞きながら、敦盛は俯いた。叩かれた額を触ってみる。
「・・・将臣殿・・・」 「痛かったか?わりぃ。強く叩いたつもりは・・・」 「いえ、違うんです。将臣殿」
敦盛は将臣を見上げた。そして微笑む。
「ありがとう・・・ございます」
将臣も笑顔で、敦盛の肩を抱く。
「じゃあ、行こうぜ」
おめでとうの言葉は皆と一緒に伝えよう。 敦盛は真っ赤になって「すまない」とか言うのだろう。 敦盛の反応を確かめるのが楽しみで仕方ない。
「譲じゃ、こんな反応期待できねぇし」 「何か・・・?」 「いいや、何でも」
将臣の真剣味溢れる言葉の裏に隠れた事実を、敦盛は知らない。
「何か欲しいものあるか?」
敦盛の反応を予想しつつも、将臣は尋ねてみる。
「いえ・・・」
案の定、予想通りの答えが返ってきた。将臣は少し考え、自分で答えを出す。
「・・・・・・やっぱり楽器か?じゃあ、ドラムなんてどうだ?」
「どらむ・・・」 「えーっと、太鼓っつーか。そうだ!鼓みたいなもんだ」
楽器店の中をぐるりと見渡し、目的のものを見つける。
「あったあった。これだ」 「将臣殿・・・これは肩に担げないのでは」
敦盛の冷静な指摘に将臣は誤魔化すように笑った。
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「で、結局これを買ってきた」 「敦盛はフルートかと思っていたよ」
敦盛の横笛を思い浮かべつつ、譲が答える。その譲の視線の先には銀色に光る平たいハーモニカをしげしげと眺めている敦盛がいる。「俺もこれでいいのかって確認したんだけどな」
小学校の前を通りがかったときに聴こえたハーモニカの音色に敦盛が目を輝かせた。この音色を奏でているものが見たいと。
「敦盛が望んだならそれでいいけど」
ところで、と言って兄を振り返る。
「敦盛がドラムを気に入ったら本当に買う気だったのか?」 「ああ、まぁな」 「そんなお金、どこにあったんだよ。俺たちから集めた分でも足りないだろ」 「魔法のカードがあるからな」
言いながら親名義のクレジットカード見せる将臣に譲は目を見開いた。
平敦盛誕生祭―青葉の音2―の小企画で投稿させていただきました。投稿させていただいたものは文字数の関係でいろいろと変わっています。ギャグになっちゃいました。蛇足を付けすぎたかもしれません。途中から敦盛さんいなくなってます。
でも敦盛さん強化月間です(笑)
20060512 続きましては