この世界に戻ってきて、いつもの日常を取り戻す。 あの戦いに身を置いていたことが夢だったのじゃないかと 錯覚しそうなほど。異世界に跳ばされる前と同じ。 ただ同じじゃないこともある。 譲くんを好きだと気づいたこと。 その気持ちを譲くんも受け入れてくれたこと。
けれど、譲くんは部活やら何やらで忙しそうで、 戻ってきてから今日まで一緒に帰れたためしがなかった。 待っているからと言っても、 待たせるわけにはいきません。なんて。 でも、今日こそは待ってると決めた。 言うとまた先に帰らせようとするだろうから、内緒。
部活中と思われる二時間ほどは図書館で時間を過ごした。 その後、正門の前で待っていた。 時折、校舎の建つ後ろを振り返りながら。

後ろから男子生徒の声が聞こえるたびに耳を澄ましては、 肩を落とす。 そんなことを何回も繰り返した。 実はすれ違いになってしまっていたのかもしれない。 本当はもう帰ってしまってるのかもしれない。 その可能性のほうが大きいのに、もう少し、もう少しだけ。 そう思ってしまって、立ち去ることができなかった。
後ろから男子生徒数人の話し声が聞こえてきた。 その中に譲くんの声が混ざっていた。 後ろを振り返ってしまいたいのをこらえて、 正門の隣の壁に背中をあずけた。何気なさを装ったつもりだ。 驚くだろうか・・・。
「先輩!?」
案の定、驚いた声がした。嬉しかった。
「待ってたんだ。一緒に帰ろう?」
譲くんは少し困ったような顔で笑った。
「・・・はい。ずっとここにいたんですか?」 「図書館にいたから」
図書館にいたのはだいぶ前のことだったけど、 そう言わないと心配すると思ったので、そう言った。 笑ってみせたら、納得してくれたようだ。
「有川の彼女?」
譲くんと一緒にいた男子生徒の一人が興味津々そうに訊ねた。 譲くんが返答するより早く、もう一人の男子生徒が、 質問した男子生徒をこづいた。
「先輩って言ってただろ。前に聞いた幼馴染の人だよ」
彼は譲くんに向かって、じゃあなと手をあげた。 それから私に軽く会釈した。私も慌てて会釈を返した。
譲くんの友達が去って行くのを、何となく見ていた。
「譲くんの幼馴染の人・・・か」 「いえ、俺の、大好きな人です」
即答されて、驚いて譲くんを見た。
「あ、いえ、あいつらに言うタイミングが・・・つかめなくて」
大好きな人だと即答してくれた驚きが、嬉しさに変わって 今度は少し照れくさくなった。
「えっと・・・ありがとう。嬉しい」
譲くんはわずかに首を傾げた。しばらく考えて、 何に嬉しいと言われたのか気づいたらしい。 顔を少し赤らめた。
「帰りましょうか、先輩」
手を差し伸べてくれた譲くんの立つ位置まで、 私の歩幅は5歩。その5歩を進んで、譲くんに激突した。 私の頭は譲くんの胸の位置。微かに譲くんの呻き声が聞こえた。 頭を彼の胸に押し付ける。そのまま深呼吸して小さく呟いた。 聞こえたら恥ずかしい。でも聞こえてくれたらいいのに。 そんな矛盾した想いが交錯した小さな呟き。
「ねぇ、キスして・・・」


神子はこんなこと譲くんにしか言えないかなーと
思って考えた話です。二人とも別人ぽいです
気づいたら神子の一人称でした。こんなのもアリだなと思っていただけたら嬉しいです。