10.君が悪いんだもん

兄上が洗濯をする回数が以前よりも減っていた。 何故か、そのことを喜ばしく思う。 それを望美に話したら、彼女は不思議そうな顔をしていた。 私にも、わからない。でも・・・

衝立の後ろで繕い物をしていた朔は話し声を聞いた。
「今日は良いお天気ですね」 「そうだね〜。いい洗濯日和だよ〜」
望美と朔の兄である景時だった。 庭を散策している最中のようだ。 景時は歩みを止めて、空を仰いだ。 陽の光のまぶしさに、手で目に日よけをつくる。
「空気も湿り気がないし、風も吹いてるしきっとよく乾くね〜」
嬉しそうな景時を見て、望美もつられて微笑んだ。
「景時さん、まえに比べて洗濯することが 少なくなったんですか?」
景時は目を丸くした。
「そんなことないと思うけど・・・」 「朔が言ってました」
景時はその名を聞いて、照れくさそうに笑った。
「朔が言うなら、そうなんだろうな〜」 「なんでもお見通しですね」 「そうなんだよね〜」
二人が笑うと風が吹き抜けた。望美が暴れる髪の毛を手で 押さえつけた。
「洗濯が少なくなったのは、きっと・・・」
続いたはずの言葉は、風に吹かれて望美には聞こえなかった。
風が収まるのを待って望美が問う。
「何ですか?景時さん」
その声に微かに首を振って、優しく笑う
「何でもないよ」


衝立の後ろで、朔は思わず頬を手で隠した。 兄の声は朔には聞こえた。
きっと、君が悪いんだよ。


景時さんは歌のイメージが強すぎて、洗濯=何かを 洗い流してるって解釈してしまっています。
書いていて会話文が多いと思うんですが、それが ますます浮き彫りになってます。