3.だいじょうぶ。
この腕を離したくない。離されたくない。 置いていかないで。一緒に・・・。
いくつもの言葉を呑み込んだ。 お互いに大切なものがある。 捨てられないものがある。 一度決めた想いがある。 それは決して翻せない。翻さない。 だから、言わない。
「そろそろ夜が明ける・・・。おまえも戻らないと」
その言葉と、相手の温もりを手放した瞬間に感じた寒さに、 これは夢じゃないのだと、悲しくなった。
「ごめんね」
戻らなければならないといった彼を引き止めてしまった。
「気にすんな。・・・俺も」
言いかけた言葉を呑み込んで、ただ微笑んだ彼を見つめることしか出来ない。 一歩踏み出せば、抱きしめられるのに。 踏みとどまらなければいけなかった。 この距離は遠いのだろうか、それとも近いのだろうか。 それも、わからない。
「だいじょうぶ」
なんて今の二人にそぐわない、場違いな言葉なんだろう。 気休めにもならない。 それでも、そう呟いたら心が少し軽くなった気がした。 その言葉が、まるで合図のようにお互いに背を向けた。 それぞれの居るべき場所へ。
これからどんなことになっても、 何があっても、 残るあなたの温もりだけで幸せだといったら あなたは怒る?