夢を見ていた。姫君をこの腕に抱きしめる。手放したくないとそう、
思っていた。夢はいつか醒めるものってわかってるけどね。 「こんなところにいたのか」 心地よい夢見を邪魔したのはその一声。腕に抱いていた姫君は煙の
ように掻き消えた。名残惜しさで一杯のまま、意識は夢の世界
から離脱した。あとには不快感が残る。 「おい、ヒノエ。夕餉だぞ。いらないのか?」 夕餉。その単語にしぶしぶ薄目を開けた。目の前には緑の髪で自分
より頭一つ高い男。望美の幼馴染の譲が立っていた。 「早く起きろよ。みんな待ってるんだからな」 夕日を遮って見下ろすように立つ譲を見上げた。急かす譲を無視し
て、不躾なほどにじろじろ見た。 「な、何だよ」 譲がたじろぐように一歩下がった。たった今、その存在に気づいた
風を装った。 「何だ・・・譲か」 夕日の光が目を刺してきて、横を向いた。いつまでも見下ろされて
いるのも嬉しくない。 わざと残念そうにため息をついて立ち上がる。 「望美が起こしてくれるのを期待してたんだけどな」 「そう都合よくいくわけないだろ・・・」 譲が呆れた様子で言った。語気を荒げるでもなく、強めるでもなく。
いかにも本心を抑えた言い方に少しからかってやりたくなる。 「そうかな?」 譲が訝しそうな視線を向けてくる。譲に笑顔を向けた。 「都合よくいかせない、の間違いなんじゃない?」 譲の気持ちが望美に向いていることは見ていればわかる。と言うか
火を見るよりも明らかなのに、気づいてないのは当の望美と九
郎ぐらいなものだ。 譲の表情が険しくなった。 さて、どう出てくる? あくまでもそらとぼけた表情を保って、譲の出方を待った。 そろそろ野郎と見つめ合うのは限界だと思った頃、譲がため息をつ
いた。 「・・・・・飯、いらないんだな?」 予想していなかった返答に一瞬、絶句した。身体から力も抜けた。 「・・・そういう手段にでるわけ?」 「いらないならヒノエの分は九郎さんたちに分けるからな」 譲の作る食事はうまい。初めて食べたときは内心で舌を巻いた。食
べ損ねるのは惜しい。 くるりと踵を返して歩き出した譲を追いかけた。追いつくと、やは
り少し視線が上を向く。 「いらないなんて言ってないだろ」 「ヒノエが変なこと言うからだろ。大体なんでそんな話になるんだ」 「・・・寝惚けたんだよ」 譲のほうが背が高くて悔しくなったんだよ。 ・・・なんて言える訳ないだろ?


一応、お題NO.19の続きのつもりで書きました。 VS譲です。 台所に立つ人は最強説(笑)全くの思い付きです。 眠れなかったんです。 ヒノエは譲のが背が高いことを内心羨んでる気がします。 恋敵になる可能性はあれど、2人は仲良しだと思います。 20060304