「おっ、譲、今日は何の日か知ってるか?」
「四月一日、エイプリルフール、だろ」
エイプリルフールと聞くと、思い出すことがある。本当は思い出したくもないし、当の本人たちはとっくの昔に忘れてるに違いないことなのだけれど、俺には忘れられない。
兄と弟
その日、俺は留守番をしていた。何故だったのかはもう覚えていない。ただ、兄さんと先輩の帰りを待っていた。
「ゆずるくん!ただいま〜」
それまではどこへ行くにも三人一緒で、俺一人が置いていかれたことなんてなかったから除け者にされたみたいで悲しかった。だから先輩の明るい声が外から聞こえてすぐに、家から飛び出した。
「のぞみちゃん!おにいちゃん!おかえりなさい!」
「ゆずる〜、おまえ、ないてたんだろ」
「!・・・なっ、ないてない!」
「めがあかいぞ」
「まさおみくん!ゆずるくんをいじめたら、ダメ!」
兄さんが俺をからかうのを止めるのは、決まって先輩だった。それから先輩が家の中に入っていくのを見送って、兄さんが俺に言った。
「ゆずる、しってるか?きょうは、えいぷりるふーるのひなんだぜ」
「えいぷりるふーる?」
「だれかにかくしごとをしたら、いけないひなんだ。おまえ、かくしてることがあったらいわなきゃいけないんだ」
素直にその言葉を信じた俺は、先輩の元へ行った。先輩にしている隠し事なんてあの頃から一つしかない。 兄さんは俺の行動を一部始終見ていて、後で大爆笑された。
今思い出しても顔から火が出そうだ。
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「何の話だ?」
「おっ、九郎、お前も混ざれよ」
兄さんは楽しそうにエイプリルフールの説明をした。九郎さんは素直に聞き入って、頷いている。
「お前たちの世界には珍しい風習があるんだな。嘘をついても許される日があるのか」
「ま、息抜きってやつだな。それでな、昔、俺が―」
兄さんは俺の顔をちらりと見た。嫌な予感がする。兄さん、もしかして―
「こいつに、エイプリルフールには隠し事をしちゃいけないって―」
「兄さん!何で覚えてるんだよ!」
「面白かったからに決まってるだろ」
「いちいち人に言うことじゃないだろ!」
「あきらめろって。弟は兄貴にからかわれる運命なんだよ」
そんなの納得できるか!
それから俺たち兄弟の―俺にとっては名誉を賭けた―攻防が始まる。1000Hit記念に置いといたものです。再びお目見え。何かこういう兄弟は大好きです。でもこの二人としてはどうなんだろうと疑問な一作。
ところで、二人が弟を置いて出かけていたのは、就学前の身体測定に行ってきたのです(心底知らなくていい情報) 20060416